トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅生を越えるジャズ再生のロマンを求める

生を越えるジャズ再生のロマンを求める



 出した結論はビンテージに逆戻り


 デジタル方式をベースにした現代のハイエンドオーディオに限界を感じ、ビンテージ機器でジャズの真髄を求めるS.Hさんの壮大なロマンです。

 しばらくオーディオから遠ざかっていたそうですが、'03年の自宅新築を機にハイエンドシステムを一式揃えられたのが事の始まりです。色々とグレードアップを試みても、良くなる気配を見せない我がシステムにS.Hさんのプライドが許さなかったのでしょう。

 2年ほどのちに、『ビンテージで新たなシステムを組むから!』との話を聞かされたときには、活気のないオーディオ業界も「とうとうこの人を本気にさせてしまったな!」と、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになりました。

 LPのオリジナル盤を凄い勢いでコレクションされていたので、その兆しは薄々とは感じていましたけど、実際にそのプランを明かされた時には衝撃が走りました。

 生きた音楽がイメージ出来るからこそ、鳴りの悪いステレオが許せないのでしょう。そんなところは私と同じですが、違うのは財力です。

 人並み外れた運動神経と感性をお持ちなので、何をやってもその腕前はプロ級レベルです。特にスピーカーの「カイザーセッティング」技術においては私も脱帽するほどです。

 幻の逸品と言っても良い「ミラクル・サウンドスクリーン」の徹底した調整でその感覚をつかまれたそうです。


 壮大なそのプランの中身は


 オーディオの為だけの建物は約250u、長いところは21メートルもあります。1メートル近いべた基礎に、生コンを運ぶ運転手はシェルターでも出来るのかと驚いたそうです。

 壁の厚みにしても20センチもあり、まるでコンクリートで出来た要塞のよう。しかし、中央部分は採光をたっぷりと取った吹き抜けになっているので明るくさわやかです。

 その気持ちの良さは明るさだけからくるものではなく、とにかく呼吸するのが楽なんです。私はかつてのヘビースモーカーがたたり、軽度な肺気腫なので特に空気の良し悪しには敏感です。それは壁面に塗られた珪藻土が効いているそうです。


 その「珪藻土とは何か?」調べてみますと、800万年前の植物性プランクトン(珪藻)が化石化したもので、火に強く昔から七輪やかまどに使われてきました。

 また、0.1μほどの超微細孔が無数に空いている事から、呼吸性や吸湿性にも優れており壁材としては打ってつけです。

 部屋中央部のT字型に交差した吹き抜け天井部分に、松ぼっくりの愛称で有名なルイスポールセン「PH Artichoke」が、ペンダント照明として格調と品性をかもしだしています。


 1958年にデザインされた、20世紀の照明デザイン史に残る名作は、なんと2本で百数十万円もします。半世紀経った今でも燦然と輝き続けるその力は本当に凄いです。


 カイザーゲージを基本に音作り


 ノイズ対策には超ど級トランスをカスタムメード。その容量と数が半端ではありません。メインに30KVAを用意し、その先に6KVAが11台繋がります。線材の太さと容量のバランスを考えた上で、音の良い長さのカイザー寸法で配線します。

 そして各アンプからスピーカーまでの長さも0.9kaiserの倍数にて配線しました。当然の事ながらスピーカー内部のネットワークからユニットまでも同じく0.9kaiser倍長にて結線です。

 すべては音楽を作曲するイメージをもってのプランニングです。その理に適った手法が比類なき音楽性を生むのです。


 システム1


□アンペックスランシング

 どう見てもJBLにしか見えません。そこで質問してみました。当時劇場の大半はアルテックが占めていて、その一角に食い込もうとアンペックスとJBLが一緒になって作った物だそうです。


 結局はその牙城を切り崩す事ができず、1年ほどで撤退した幻のスピーカーであり、JBLファンにとっては垂涎の的とのこと。

 そのスピーカーをドライブするアンプにはMcIntosh MI 200が4台、プレーヤーがLP12、EMT 927、カッティングマシンであるノイマンのギア・レースもプレーヤーとして使用予定ですが、この写真は組み立て途中の物です。


 
 各機器の足場は全てローゼンクランツ製品が担っており、特に927にはそれ専用に設計図を起こした特注のサウンドステーションです。


 プリはJBL SG 520、Marantz 7、McIntosh C22、Mark Levinson LNP2L。


 Esoteric P-0s、G-0s、dcs Verdi、Elgar、Percell。このようにデジタル系も現在入手し得る最高級の物でラインナップしてあります。


 ジャッキを使ったスピーカーセッティング


 私が伺った時は、初めての音出しを一週間前に終えたところだったにもかかわらず、相当レベルの高い音がしておりました。

 低床型ジャッキが届いたばかりで、セッティングするにはジャストタイミング。スピーカーの下にその長いアームを差し入れ、足でステップを二三度踏むとスピーカーは見る見るうちに浮き上がりました。油圧の力というものは本当に凄いですね。

 30センチほど前にですが、あらかじめテープでマーキングしておいた位置まで、そのままの状態を保ちながら平行移動させます。

 人の背丈より高く、幅は両手を広げても届かないほどです。そのモンスタースピーカーの下にはローゼンクランツの特注サイズのウッドブロックとBIG BOSSインシュレーターで受けております。


 とにかくビックリしたのはスピーカーの内振り角度です。私がイメージしたラインと寸分の狂いもありません。こんな何百キロもあるスピーカーをジャッキも無しで合わせた耳と力は執念としか言いようがありません。


 S.Hさんのスピーカーセッティング能力は本当に凄いです。前後の位置にしてもカイザーゲージの山にピタッと入っており、私は157.5ミリの青い波の2倍長ほど前に平行移動させただけでした。


 床に置かれたネットワークボックスをスピーカーの振動の時間軸と合わせ込んでやると、見る見る内に音楽がリズミカルになってきます。特に大型スピーカーだけに、僅かな事でも大きな違いとなって現れます。


 一世一代のクリニック


 そんな中で左右のエネルギーバランスに結構な違いがある点を気になさっていたので、問題点を洗い出した上で、全てのユニットのマッチングを取り直すことを提案させて頂きました。



 大掛かりな「スピーカーの加速度組み立て」


 箱の裏蓋を外し、ウーハーユニットのエネルギーの方向性を見極め、上のホーンドライバーと音色が繋がるように角度を変えて付け直します。当然の事ながらネジのトルクコントロールも慎重に行ないました。

 特に大変だったのは、箱の上に乗っけてある蜂の巣のホーンと375ドライバーを下ろす作業です。脚立を使って4人がかりでやっとこさでした。


 全ての部品をバラバラにし、色々と左右の入れ替えもしながら組み換えました。もちろんネジの適材適所を見切って「加速度組み立て」を施します。

 これだけの大掛かりな仕事をさせて貰えるのは名誉な事であると共に、おそらくこれが最初で最後でしょうから、重要文化財を扱うような気持ちで集中して取り組みました。

 生意気を言うようですが、これら一連のセッティングはカイザーサウンドのオリジナル技術ですから、他に代わりをなすものはありません。


 システム2


 □ロンドンウェスタン A4

 NBAの選手が背伸びしてやっと手が届きそうな高さのスピーカーは、箱こそアルテックのA4と同じですが、実はロンドンウェスタン製です。その特徴は小さめのホーンの開口部にあり、二階席にまで音が届くようにかなり上を向いております。


 私にはこのA4に強い思い出があります。約20年前に1,200万円ほどするInfinityのIRSとどちらを買うか迷った相手だったのです。何を隠そう当時の私はアルテック気違いでA5や同軸の604を楽しんでいました。


 システム3


 □JBL ハーツフィールド

 このスピーカーは本当に良く出来ています。ローエンドまで良く伸びていて、なおかつ反応が速いので、あらゆるジャンルの音楽が楽しめるオールラウンドプレーヤーです。大変完成度の高いスピーカーで、現代でもこれを超えるスピーカーは表れていないといっても良いかもしれません。


 レコードプレーヤーはLP12、プリはJBL SG 520、パワーアンプがマランツの#9が4台。CDプレーヤーはシンプルにリンのCD12となっています。もちろん各機器の下にはローゼンクランツのインシュレーターが使われています。


 特に工夫の後が見られるのがLP12の足場です。3台ともウッドブロックで決めているのは同じですが、その厚みを変えたり、ハウジングを外したりとかしながら音を追い込んでいます。



 システム4


 □JBL パラゴン

 この美しいシルエットは不変のものです。'50代にはこうした素晴らしい作品が沢山生まれました。アメリカの黄金時代で、映画館のスクリーンで見るその豊かな生活ぶりや、ラジオから聞こえてくる魅力的な音楽に耳を傾けては将来を夢見たものでした。


 こちらの部屋は定在波対策としてスピーカーの背面が屏風形状になっていて、その中でも反射と拡散、そして適度な吸音は絶妙なバランスで構成されております。

 プレーヤーLP12とプリアンプJBL SG 520は他のシステムと全く同じです。パワーアンプはKT-88プッシュプルのマッキントッシュの275でパラゴンをドライブします。


 どなたがポジションを決めたのか、特に素晴らしいのは3枚の絵の絶妙な配置が音響的にそこしかないポイントに入っています。


 さらに驚かされたのは、その絵のピアノとドラムとギターの並びです。これもジャズがスイングするのに一役も二役も買っているのです。S.Hさんの感性たるや本当に神がかっています。

 この天井と壁の構造も素晴らしいですね。無垢木の梁と柱がコンクリートの筐体と強力に固定されることによって、建物そのものが音楽でリズミカルに振動する仕掛けになっています。



 一部屋に2台のスピーカーセッティングは難しい


 ハーツフィールドとパラゴン。この二つのスピーカーは大変マッチングの良い組み合わせです。普通は一部屋に2組のスピーカーをセッティングするのは困難を極めます。

 しかし、コーナー型のハーツフィールドと部屋の中央に置くように作られているパラゴンですから、お互いがサウンドスクリーン効果を生み出すのでこの上なく相性が良いのです。


 ただし、両者の効果が最大に出るような位置関係に置かれた時のみに起こる、ピンポイントセッティングが条件になります。それは、まるでバックスクリーン直撃のホームランのような気持ちの良い音がします。

 床にはこまめに位置調整したマーキングの後が残っています。全ては耳で探り出す作業なのですが、オーディオのイベント会場であっても、ショールームやミキシングスタジオであっても、私の経験した中では2組同時セッティング出来た場面に出くわした事はありません。

 こうして立派なオーディオの館が完成したわけですが、オーディオを愛する全ての人達がS.Hさんのロマンに触発され、豊かで楽しい音楽ライフを手に入れて欲しいものです。


 お客様に育てて頂いております


 3年半ほど前、時期としては”カイザーゲージ発売”の2ヶ月ほど前に初めてS.Hさんからインシュレーターについて問い合わせを頂いたのがお付き合いの始まりでした。

 スピーカーのカイザーセッティングの調整技術も徐々に完成しつつある頃です。深夜の3時、4時までお付き合い下さったこともありました。しかし、充分な結果をお届けする事が出来ませんでした。

 いかなる理由があろうとも、私の腕不足である事には間違いありません。そんな悔しい思いをバネに努力しました。そして一生懸命研究もしました。そんなところを見ていて下さったのでしょうか、こうしてまた大きなプロジェクトにも参画させて頂きました。

 そして、これだけのシステムを前にしても平然と調整出来る自分に、本当に進歩したなぁと・・・、感極まりそうになりました。

 これもひとえに、力不足であっても懲りずにチャンスを下さったS.Hさんのお陰と感謝しています。今後も音楽愛好家の皆様の為に精進努力致します。

 カイザーサウンド
 貝崎静雄


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